「おもしろかった本」と言ってしまうと、自分の価値観の押し付けのような気がするので、ここでは「興味深い」という言葉を使いたい。

2024年に読んで“興味深かった本“を紹介していく。(発売は2024年とは限らない)。ボクごときが人に薦めるなどもってのほかなので、「そういう本もあるのか」程度の平熱と変わらない温度感でとらえてもらえればそれでいい。偉そうでごめんなさい。

『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(J.D.ヴァンス)

ヒルビリーは人生の早い段階から、自分たちに都合の悪い事実を避けることによって、あるいは自分たちに好都合な事実が存在するかのように振る舞うことによって、不都合な真実に対処する方法を学ぶ

アメリカの白人貧困層の家庭で育った弁護士の回想録(エッセイ)。この弁護士つまり著者は、2025年のトランプ政権で副大統領となるヴァンスだ。

……と聞くと、「アメリカすごい」「やっぱりアメリカ」となりそうなものだが、この本はエレジー(哀歌)の名の通り、白人の貧困家庭での悲惨な暮らしを描く。サンプルとしては1に過ぎないが、それでもトランプに傾くしかない人たちの絶望が感じ取れる。

よく言われる「分断」という言葉を使うなら、分断はすでに完了していてもう取り返しのつかないところまできているのだ。

『傲慢と善良』(辻村深月)

「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。ーー高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掴みたいだけなのに、なぜ、と」

婚約者がある日姿を消してしまうある種のミステリー(?)小説。『高慢と偏見』を意識したタイトルからもわかるように結婚を題材とし、男女それぞれの視点から描く。

「婚活」という言葉が生まれ、意味合いが変わった結婚にどう向き合うのか。男と女の違いだけでなく、東京と地方の違いについても書かれていて、「わかるわかる」とうなずきながら読み進めた。

作中でタイトルをそのまま描写する箇所があって、そこは個人的に好みではなかったけれど、それだけで嫌いになれる作品ではない。

『風雲児たち 幕末編』第21巻(みなもと太郎)

「首のない胴を『生きてる』として幕府が押し通すのですから胴のない首も生きていて何の不思議もない」

2024年、もっとも読み返した本。40年以上続いた漫画の21巻。幕末(1853年~)を関ケ原の戦い(1600年)から描く超大作も、この幕末編21巻では、ついに桜田門外の変を迎える。

「変」を起こした側と、それによって影響を受けた側それぞれが「体裁」を保とうとするのがいかにも日本人らしくて、(この表現は好きではないけれど)学びが多い一冊だった。とりわけ井伊直弼の「首」をまつわるやりとりは、世間体を気にする人びとがいかに滑稽かよくわかる。

恥と外聞、本音と建て前のはざまで右往左往する人々ほど情けないものはない。

『特攻服少女と1825日』(比嘉健二)

経済関係の怪しい出版社は銀座か新橋に多い。その‘無理してる感’も大事といえば大事なのだろう。

1980年代に刊行された少女ヤンキー雑誌『ティーンズロード』の編集者が当時を振り返るノンフィクション。レディース(女性のみで構成された暴走族)の総長をはじめ、取材対象となる「人」を描くスタンスが興味深かった。そういう時代だったといえばそういう時代だったんだろうけど、1冊の雑誌に注ぎ込むパワーがすごい。

読者と近い雑誌、読者と双方向性のある雑誌はもう生まれないのかなという哀しさを感じざるを得なかった。